人生の台所デビューは、たいていリンゴと共に始まります。
うちの母は料理マメで何でもよく作りましたが、リンゴはあまり加工しませんでした。本人曰く、生のまま食べた方が美味しいから。
「1日1個で医者いらず」と言われるくらいだし、できれば生で栄養を満喫したい。
自分で台所に立つようになった今は、母の言うことが分かります。それでもたまに、リンゴでパウンドケーキを焼いてくれましたが、火が入って程よく脱水されたリンゴは、食感がコリコリになり旨味が凝縮されて感じました。庶民的なリンゴも子供の私にとっては特別な存在でした。
包丁の使い方を学んだのも、リンゴの皮剥きからです。
まずリンゴを縦4つに切って、芯を舟形に抜いて、皮を剥いて。母のするこの一連の動作が面白くて、ずっと横で眺めていたある日、自分もやりたいと言ったのを覚えています。
こうして何十年もクラシックなやり方でリンゴを捌いてきたのですが、ある日突然、終止符が打たれます。
友人がピーラーでリンゴの皮を剥くのを見て、目から鱗。人参やジャガイモの皮は迷いもなくピーラーで剥くのに、なぜかリンゴの皮という発想には、今まで一度もならなかったのです。
おまけに彼女は、リンゴの芯を舟形になんて切り取りません。丸リンゴの芯部を四角柱に残すようにして、果肉を切り落とすのです。リンゴを大量に捌くときには、なんとも便利な技です。
こうして私は「時短技」の魅力に屈してしまいます。でも他人の台所を覗くのってお行儀悪いけど、思いもせぬアイデアが発見できて面白いものですね♪
「リンゴのタルトタタン」レシピ
日本のリンゴは、分厚すぎない皮、適度に締まった身、蜜たっぷりの果肉と高品質です。フランスにも多くの種類がありますが、生食で満足できる品種はそう多くはありません。全般に小ぶりで皮は厚め、甘味も薄く、お菓子や料理にはもってこいです。レシピも色々あり、中でもタルトタタンは、庶民的な果物が豪華なデザートに変身するシンデレラレシピです。
材料 りんご : 8個 砂糖 : 150g バター : 150g レモン汁 : 小さじ1 パイシート : 1枚 バニラ・シナモン : お好みで
作り方
①オーブンを180℃に温める。リンゴは皮を剥いて4つ切りにし、レモン汁をふりかけておく。
②分量のバターと砂糖を焦げない鍋に入れて火にかける。(直火とオーブン兼用のフライパンがあればそれで直に作ると便利) ヘラで数分間かき混ぜ続ける。
③砂糖分が茶色く色づいたら火を止め、液を型に流し込む。
④型にリンゴを詰める。シナモンやバニラで風味付をする。
⑤リンゴに蓋をするようにパイシートを覆い被せる。ナイフでシートに5カ所ほど蒸気抜きの穴を開ける。
⑥180℃のオーブンで40分ほど焼く。粗熱が取れたら、お皿にひっくり返して出す。
ポイント - 伝統レシピではタルトは常温か少し温めて、ホイップクリームと共によばれます。 - 予めフライパンで軽く熱を入れたリンゴを型に詰めると、オーブンの焼き時間が短縮できます。