《LE GRAND BLOND AVEC UNE CHAUSSURE NOIRE》
イヴ・ロベールとフランシス・ヴェベールのフランソワ・ペランをピエール・リシャールが演じる最高のスパイ・コメディ映画。フレンチユーモアの代表作です。こんなスパイ映画もあるとは。クスクスと笑わせてくれる、おしゃれな映画です。
原題 Le Grand Blond avec une chaussure noire
監督 イヴ・ロベール
脚本 イヴ・ロベール / フランシス・ヴェベール
音楽 ヴラディミール・コズマ
出演 (役) ピエール・リシャール
(フランソワ・ペラン)
ベルナール・ブリエ
(ベルナール・ミロン)
ジャン・ロシュフォール
(ルイ・トゥールーズ)
ミレイユ・ダルク
(クリスティンヌ)
公開年 1972 年
上映時間 86 分
ジャンル コメディ・スパイ
言語 フランス語
あらすじ
フランス諜報機関長官のトゥールーズは、野心家の部下ミロン副官の陰謀によって、二重スパイの容疑に巻き込まれていた。ミロンはトゥールーズ長官の席をねらっているのだった。
そのミロンの陰謀を知ったトゥールーズは、彼をハメる計画をたてる。その計画とは、空港で飛行機からおりたった誰かを適当にえらんで、陰謀をたくらむミロンに、その誰かは ”二重スパイ事件の解決に来たやり手の諜報員” と思い込ませることだった。
そして選ばれたのが、片足に黒い靴、もう片方に茶色の靴をはいて飛行機からおりてきたヴァイオリニストのフランソワ・ペラン。ものの見事にミロンはトゥールーズの計画にハマり、フランソワ・ペランを諜報員だと信じて追いかけ回す。見張りをつけてペランの生活を一部始終監視し、部下の女スパイ、クリスティンヌをペランの元に送り込む。
感想
スパイ物のパロディ映画です。フランスの王道クラシックユーモアはこれなのだなと感じさせる作品。
私はピエール・リシャールの演技が好きなので、この作品はもう何回もみてるのですが、もしかしたらアメリカ物のテンポの速いのに慣れている人には、かなりゆっくり感じられるかもしれません。
ユーモアも品がありつつ面白可笑しいけど、転げ回って笑うという類のギャグではありません。フランスでも、好きな人は大好き、面白くない人には本当に面白くない、と分かれてしまうようです。とくに世代差はあるようですね。
パリ国立音楽院を首席で卒業、と肩書き抜群のソロヴァイオリニストのフランソワ・ペラン。彼は知らずして諜報機関のゴタゴタに巻き込まれていくのですが、最後まで彼は何の真相も知らないまま、天然のボケっぷりで我が道をゆきます。
片方だけ違う靴を履くなんて普通ありえないけど、彼にはありえる。それがフランソワ・ペラン。歯磨きチューブの中身がヒゲ剃りクリームに入れ替わってても、何も疑わない。その天然さが、子供っぽくてかわいい。
そんな彼も、ちゃっかり愛人がいて人生を楽しんでるよう。その愛人、(『奇人たちの晩餐会』でのピエールの愛人もそうだったけど) 愛人というから、美人で色っぽいのかと思いきや、すっごいクセのある変わった女性をキャラクターに設定しています。これが愛人か?! というギャップがまた面白い。
そして忘れてはならないのが、フランソワ・ペランの元に送り込まれて来る、女スパイを演じたミレイユ・ダルク。そう、アラン・ドロンと長く付き合ってた彼女です。
映画中の彼女の黒ドレス姿といえば、今もみんなが語るところ。お尻の上まで背中がガッポリ開いたドレス姿は、むちゃくちゃ色っぽい。(彼女、マクロン大統領の奥さんブリジット夫人に似てるような気が。いや逆か、ブリジット夫人がミレイユ・ダルクを意識してるのかな〜)
ベルナール・ブリエもジャン・ロシュフォールも、シビアに笑わせるいい仕事しています。でも、ブリエはちょっと影うすかったかなあ…もったいない設定されてましたね。
ひとり毛並みの違った笑わせ方をするキャラがいました。フランソワ・ペランの親友でティンパニー奏者のモーリス。フランソワ・ペラン以上にとんまで、おかしなペランが普通に見えるほど。
でも彼、面白いんですけど、なぜか私のツボにはハマりませんでした。なんでかなと考えたのですが、どうもあのキャラの存在自体、なんか違和感あったような。
コミカルだけどクールな一面もある作品の中に、ギャグとしてしか存在してない彼のキャラにいまいち魅力を感じられなかったようです。
そういや、ミレイユ・ダルクは一回も笑かしてくれなかったなあ。『奇人たちの晩餐会』しかり、美人はボケない設定っぽいですね。
最後はフランソワ・ペランは美女スパイと相思相愛、めでたくブラジルへ旅立ってゆくのですが、美女が中に入ったルイ・ヴィトンのスーツケースのデカいこと! そんなどうでもいいことが気になってしまいました…
そうそう、コズマが作曲したこの映画のテーマ音楽も有名です。ぜひ注意して聞いてみてください。
おまけ
私の一番好きな場面でもある、フランソワ・ペランが首席ヴァイオリンを務めるオーケストラの演奏会シーン。
この場面で、オーケストラの指揮者役に監督イヴ・ロベール自身が出演しています。
あの有名なモーツァルトの交響曲40番にチャイコフスキのヴァイオリン協奏曲をかませたり、ティンパニー奏者モーリスもやらかしてくれて、結構がっつり笑えます。
監督もこの場面にはかなり力を入れたのかもしれませんね。