クリスマスの映画だったんだ?というくらいクリスマス色のない作品ですが…
クルーゾの長編3作目の作品【犯罪河岸】。
原題の « Quai des Orfèvres » は、パリのセーヌ河沿いにある通りの名前。
以前はこの通りに、パリ警視庁の刑事部がありました。
漢字ばかりの邦題にちょっと時代を感じますが、原題の名付けはなかなかシャレた発想。
重たく薄暗いサスペンスでなく、軽快で人情味あふれるサスペンスを楽しみたい方に、オススメの作品。
作品情報
『犯罪河岸』 原題 « Quai des Orfèvres » 監督脚本 アンリ-ジョルジュ・クルーゾ 出演 シュジー・ドレール ベルナール・ブリエ シモーヌ・ルナン シャルル・デュラン 公開年 1947年 上映時間 105分 ジャンル ドラマ・警察/犯罪
あらすじ
ミュージックホールで歌う二流歌手のジェニーは、男を引きつける可愛い色気を持った、出世願望の強い女。ピアノ伴奏をする地味な夫モーリスは、そんな派手な妻の行動が、いつも気がかり。ふたりは愛し合っているものの、喧嘩が絶えない。
ある夜ジェニーは、大金持ちのスケベ老人ブリニョンの目にとまり、映画出演の話に舞い上がる。ジェニーと老人の面会をモーリスが大反対していたため、彼女は母親に会いに行くと嘘をついて外出する。しかし、ジェニーが老人宅へ向かったと知ったモリースは、怒り心頭。ピストルを持って、いつものミュージックホールに顔を出してアリバイ工作をし、老人を殺しに向かう。
モーリスがブリニョン宅に到着すると、ジェニーは居らず、そこには老人の死体があった。すっかりジェニーが殺したと信じるモーリス。急いで老人宅を出ると、何者かがモーリスの車を盗んで走り去って行った。
実はジェニーは、襲ってきたスケベ老人をシャンパン瓶でなぐり、逃走していた。そして信頼するアパートの女友達ドラに全てを話す。ドラは写真家で、モーリスの幼なじみ。ドラはジェニーを庇おうと、彼女が置いてきた毛皮のマフラーの回収と指紋を消しに、ブリニョン邸へ向かう。
パリ警視庁の捜査官アントワンヌが、この事件の捜査にあたる。アントワンヌは植民地歩兵部隊の元副将校で、現地の女性との間にできた、まだ小さい息子と二人で暮らしている。彼はドラ、ジェニー、モーリスに辿り着き、モーリスがブリニョンを脅していたこと、事件の夜にミュージックホールでアリバイ工作をしていた事実を見つける。
クリスマスイヴの夜、モーリスは警察に呼び出され、激しい尋問を受ける。そして全てを白状すると、そのまま身柄を拘束される。彼は勾留中、ジェニーを庇う一心で、手首を切って自殺を試みる。モーリスが自殺未遂を起こしたと聞いたジェニーは、全てをアントワンヌに白状する。
以下、結末バレ
一方で勾留中のドラは、ジェニーを庇い続けるあげく、自分がシャンパン瓶で殺ったと言い出す。しかし、ドラの心を見抜いたアントワンヌは、ブリニョンは銃殺だったこと、真犯人に心当たりがあることを説明。ドラは、ジェニーとモーリスの嫌疑が晴れたことを知る。犯人はモーリスの車を盗んだ男だった。
クリスマスの朝、ジェニーとモーリスは、お互いの愛を再確認しながら無事に帰宅。アパートに着くや否や、アントワンヌが訪ねて来る。ジェニーに毛皮のマフラーを届け、モーリスには明日警視庁に証人として出頭するよう一言残して立ち去る。ジェニーとモーリスは、雪の中をアントワンヌ刑事が息子と戯れながら歩いて行くのを、微笑ましく見ていた。
感想
推理モノではありませんが、登場人物の人間臭さがプンプン匂ってくる、心温まるサスペンスドラマ。
モノクロでも古さを意識させない作品もある中、本作はどちらかと言うと、時代を感じる作品。ですが4人の登場人物のキャラが濃く、ハマリ役ばかりなので、簡単に最後まで観れてしまいます。
派手な毛皮をまとい、麗しい?ビブラートをかけ、色気たっぷりに歌う二流歌手ジェニー (←この人が時代を感じさせる元凶…)。彼女の夫で、焼きもち焼き、髪は薄く地味な良人モーリス。
ふたりは喧嘩しつつも愛し合っている、微笑ましい夫婦。相手を気遣って、下手に隠し事をし、余計に事をややこしくします。観ていてイジイジしますが、絆の太い夫婦って素敵だよな…と感じさせるカップル。
ジェニー夫婦を陰で支える女性、ドラ。彼女はジェニーに恋しています。これは刑事アントワンヌが「あんたは私と同族だ。女にはツイてないんだよ。」と言うクダリで分かります。彼は息子の母親である女に立ち去られ、ドラはジェニーに片思いなんですね。
そして、噛めば噛むほど味が出るタイプの刑事アントワンヌ。無骨でドスが効いてるから、一見とても柄が悪い。でも実は、小さい息子を独りで育る子煩悩なオヤジ。
この「冷徹だけど人間味がある」という人物設定は、ありがちと言えど、やっぱり心がキュッとなる素敵なシーンを演出してくれます。
雪玉を投げてきた息子を抱え上げ、今から何か食べに行こうな!と言う最後の場面。いつも仕事で留守ガチ、約束は保留ガチで、父子関係を気にしての発言に垣間見る、父親の愛情。
アントワンヌがドラにパーソナルな一面を見せる前述のシーンもそうですが、クルーゾは、感動・寂しさ・恐怖など、観る者の琴線に触れる渋いカットを入れるのが、とても上手いと思います。
話の辻褄がゆるい箇所があるのはともかく、登場人物の描き方がピカイチ。俳優陣もトップ面なので、ダサくなりそうな大衆色のストーリーも、滑舌良く仕上がっています。特に刑事役のルイ・ジューヴェが、ものすごい勢いで作品を引っ張っていくのは見モノです。
おまけ
クルーゾの長編映画1作目と3作目に主人公で登場するシュジー・ドレール (ジェシー役) は、当時クルーゾの彼女でした。ふたりが出会ったのは、シュジーがミュージックホールで歌っていた時。どうしてクルーゾが彼女を主役に持って来るのか不思議だったのですが… これで納得です。
参考参照: Dossier enseignant – Quai des Orfèvres- Transmettre le cinéma