みなさん、こんにちは。
今日は、仏映画クルーゾの作品【情婦マノン】の紹介です。
原作は『マノン・レスコー』という18世紀に書かれた小説。
男を狂わす女マノンの話で、このテーマを使ったオペラや映画などの芸術作品が作られています。
セクシーなだけでなく、男を狂酔させる何かを持ったマノンと、その魅力に取り憑かれて、愛と独占欲が混同してしまった男の話。壮絶な愛が描かれた作品です。
Table des matière
作品情報
【情婦マノン】 原題 « Manon » 監督脚本 アンリ-ジョルジュ・クルーゾ 出演 ミシェル・オークレール セシル・オブリー 公開年 1949年 上映時間 100分 ジャンル ドラマ
あらすじと結末
虐殺を逃れたユダヤ人らを乗せた船が、マルセイユからイスラエルに向けて出港した。航海士の一人が、貨物室に隠れていた1組の男女、ロベールとマノンを発見。航海士はすぐに、新聞で見た殺人容疑で指名手配中のロベールだと分かり、ふたりを船長の元まで連れて行く。ロベールは乗船するまでの経緯を、船長に語り始める。
時は遡り…
1944年、戦争で荒廃したノルマンディのとある町。若きレジスタンス兵士ロベールは、ドイツ兵に媚びて身体を許していた罰に、髪を丸刈りにされるという女性マノンの監視役を務めている。しかし二人はすぐに恋に落ち、ロベールはマノンと逃避する。
ふたりはマノンの兄レオンが居るパリへと移動する。レオンは闇商売で大きく稼いでおり、裕福な生活を送っていた。マノンはたちまち贅沢に興じ、大金のために売春する生活に耽る。ふたりで地味に幸せに暮らしたいと言うロベールの希望に、まったく聞く耳を持たないマノン。
全ては兄レオンの斡旋である事を知ったロベールは、怒りに任せてレオンを絞殺してしまう。ロベールの自分への強い愛にやっと気づいたマノンは、彼と一緒に海外へ逃避することに決める。そして二人はマルセイユ港で船に潜り込んだ。
(以下、結末バレ)
船長はエジプトの寄港地で二人を警察に引き渡そうと考えていたが、ロベールの話に同情し、イスラエルまで逃してやることにする。
イスラエル沖まで来ると、移民者たちは数隻の小型ボートに乗り換え、パレスチナの浜辺へ不法上陸する。その中にロベールとマノンもいた。ふたりはユダヤ人の列にまじり、街へ向かって砂漠を歩き続ける。
赤熱の太陽のもと、疲労と戦いながら荒野を渡っていると、突然アラブ人の襲撃をうける。ユダヤ人たちは銃撃され、マノンも弾に当たって倒れる。
ロベールはマノンの亡き骸を背中に担ぎ、砂漠を歩み続ける。体力も限界になった時、彼はマノンの身体を砂の中に埋める。そして彼女の傍に横になり、マノンの頬にそっと自分の頬を寄せ、最期の時を迎える。
感想
激しい愛を美しく描いた作品なんだろう、と思っていたのですが、クルーゾが描く『愛』がそんな可愛らしいはずもなく…
ラストで一発お見舞いするのが好きなクルーゾは、本作では、伝説化するほど強烈な最後を描きます。ちょっと歪んでるんとちがう?と思うほどの、壮絶な愛を描いた作品です。
以下、ネタバレ
砂漠をゆく疲れ切った人の列、愛を語る男の横で白目をむく女。そこら中に色んな意味で、美しくも淋し気なカットが散りばめられています。
富と贅沢に酔いしれ、売春もいとわないマノン。どう見ても彼女の頭の中は、ロベールが1番ではないのは丸分かり。なのに彼は一途に、盲目的にマノンを愛し続けます。
この時点で、怖っ!と思いましたが、彼の愛はこれでは治まらなかった。死体になったマノンを引きずってでも、彼女と一緒に前進しようとします。そして、彼女が死んでやっと自分だけのものになった… と言って幸せそうに迎える最期は、もう恐怖のみ。
私にとっちゃ悲劇作品でしたが、人によったら涙が出るほど美しい愛の作品 (少なくともロベールにとっちゃ幸福な結末だった) に見えるのかな… と考えながら観ていました。非常に怖かった作品です。
おまけ
小柄で童顔だけど独特な肉感的色気を醸しだし、見事にファム・ファタルのマノン役を演じた女優セシル・オブリー。本作で小悪魔的イメージを彷彿とさせた彼女は、後にあの有名な児童アニメ『名犬ジョリー』の原作フランス語版『ベルとセバスチャン』を執筆します。