仏映画クルーゾの【密告】匿名の手紙、カラスは誰⁈

匿名の差出人「カラス」は誰?

今日は、戦時中に公開された監督クルーゾのサスペンス映画【密告】の紹介です。

 

サスペンス物は、上手くまとまってるけど大味だなと感じる作品が時々あるのですが、クルーゾの作品はちょっと例外。

彼の当たり作には、非常に魅力的な繊細さがあります。

この『密告』もそう。

色んな点で、観ていて怖かった、楽しかった、満足の作品です。

作品情報

【密告】
原題 « Le Corbeau »

監督 アンリ-ジョルジュ・クルーゾ
出演 ピエール・フレネ
   ジネット・ルクレール
   ピエール・ラルケ
   ミシュリーヌ・フランセ

公開年  1943年
上映時間 92分
ジャンル ドラマ・サスペンス

あらすじと結末

フランスの小さな田舎町。産婦人科医ジェルマン宛に、匿名「カラス」の手紙が届く。町の精神科医ヴォルゼの若妻ローラとジェルマンの不倫関係、モルヒネの密売、堕胎手術… カラスからの告発が続き、ジェルマンは人々から敬遠され始める。そんな中、患者ドニーズと関係を持つようになる。

ある日、ジェルマンの若い男性患者が、カラスによってガン告知され、自殺してしまう。葬儀の際、青年の看護師だったマリーの花束から手紙が発見され、マリーはカラス疑惑で逮捕される。しかし新たに届くカラスの手紙によりマリーの疑惑は晴れたものの、有力者たちは町の平和のために、ジェルマンを追い出そうとし始める。一体「カラス」は誰なのか…

 

以下、結末バレ。

 

ついにジェルマンは、自分の過去を明かす。パリで脳外科医をやっていたこと、妊娠中の妻が病気になり妻子ともに失った事、以来名前を変えて産婦人科医をやっていること。

ある日、ジェルマンはドニーズの部屋で、彼女が妊娠している事を告げたカラス風の手紙を見つける。彼はドニーズがカラスと疑うが、彼女は潔白を主張。ジェルマンを精神科医の妻ローラの元へと走らせる。

到着したジェルマンがローラの手についたインクを目にした時、精神科医ヴォルゼが現れ「全ては心を病んだ若妻ローラが、ジェルマンの気を引くためにやっていた」と説明をする。ちょうどその時、ドニーズが階段で落ちたとの連絡を受けたジェルマンは、一旦ヴォルゼ宅を離れる。しかし、戻って来た時にはすでに遅し。若妻ローラは精神病院へと連れられて行き、ヴォルゼは書斎で手紙のサイン途中で息絶えていた。

窓の向こうには、黒いベール服をまとって去って行く、自殺した青年の母親の姿があった。

感想

クルーゾの長編1作目『犯人は21番に住む』に比べ、この2作目は格段に面白く、完成度も高いです。ストーリーは興味深く、テンポも悪くなく、古臭くささも感じません。

電球の明かりを揺らしてできるモノクロ独特の陰影表現、被写体の選び方、落ちてる手紙から見たカメラ目線、いつもボール遊びをしてる女の子、黒いベールの女性など、意味深なカットが散りばめられていて、なかなか美しい出来です。

「カラスは誰か?」というミステリー要素を大切にしつつも、むしろそれは副次的で、町の人々の反応や登場人物たちの事情など、「人間性」の描写が作品の重要な骨格になっています。

 

(以下、結末バレ)

 

最後の最後で、観客に一発お見舞いするのが好きなクルーゾですが、この作品もラストで楽しませてくれます。窓越しに去って行く黒ベール姿の女性… これは怖かったですね。こういう、何気にパンチ力あるカット使いが、クルーゾは本当に上手いと思います。

結局カラスは、妻ローラの心がジェルマンに向いてる事に嫉妬した、精神科医ヴォルゼだったわけです。”心を病んだ妻” に責任をなすりつけて事件収束しようとするも、自殺した青年の母親によって殺されます。

ミステリー面ではちょっと辻褄が合わない点があるものの、映画って芸術なんだなと思わせる、非常に満足度の高い作品でした。

おまけ

1920年頃、匿名の手紙事件が、フランスのある町で実際に起こります。それを元に、ルイ・シャヴォンスがシナリオを書き、戦時中に独資本の制作会社コンチネンタルからクルーゾが映画化。しかし当時は “ユダヤ人を密告する手紙” の存在にからみ、「匿名の手紙で密告する」というテーマがドイツ側には不評だったものの、映画は製作公開されます。しかし戦後、フランス解放の波にともない、作品の内容がフランス人像を悪くしているとする観点から、審査機関によって上映が禁止 (2年間) されることになります。

参考参照: DVD : L’intégrale en  version restaurée « Le Mystère Clouzot »

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