今日はクルーゾの【スパイ】です。
舞台は冷戦時代のフランス。
主人公は、ひなびた精神病院の院長。
彼はあれよあれよと言う間に、スパイの渦に飲まれていきます。
どこか不条理でシュルレアリズム色が感じられる、ちょっと頭が混乱するかも?な作品。
作品情報
『スパイ』 原題 【Les Espions】 監督 アンリ-ジョルジュ・クルーゾ 出演 ジェラール・セティ クルト・ユンゲンス サッシャ・ピトエフ 公開年 1975年 上映時間 137分 ジャンル スリラー
感想
クルーゾの得意技「最後にきっちりとオチないオチ」。
これぞサスペンス!という、宙ぶらりんに吊り上げられたオチ感を味わうのが、いつも楽しみなのですが…
フィルムが古いこともあって、今回のラストは猛烈に神経に触ったオチでした。
最後の余韻に浸ることなく、急いで映像を終了させたのは、多分この作品が初めてです。(笑)
評価は分かれそうな作品ですね。
冷戦時代の東西のスパイが出てくるサスペンスで、一般的なスパイ活動の映画ではありません。
主人公の精神科医が、ある計画の渦に「巻き込まれる」、と言うよりむしろ、見ざる聞かざる言わざるを念押しされたにもかかわらず、自ら「首を突っ込んでいく」お話。
少々この医者にはイライラしましたが、登場人物はいつものクルーゾ通り、強烈なキャラ陣で固められているので、観ていて非常に楽しいです。
ストーリーやテンポにおいては、全体的にちょっと荒作りな感じがしました。ですが、理解しようとすればするほど分からなくなる、ミステリー要素の提示が上手いので、特に前半は状況を把握しようと、必死になって観てしまいました。
クルーゾの傑作群には入らないかも知れませんが、カフカ的な不条理や混沌を味わえる人には、それなりに楽しめる作品かと思います。
あらすじ (結末バレ)
冷戦時代のパリ郊外。つぶれかけの精神病院を営む院長マリック。患者は治療嗜癖者の男性と、ウツで声が出せなくなった女性ルシーの二人だけ。
ある日マリックは隣のカフェで、米国心理戦学会のハワード大佐という人物と出会う。ハワードは、アレックスという男性を病院で匿って欲しいと、手付金の札束と共に依頼する。マリックはそれを受け取る。
翌朝、病院内や周辺はスパイだらけになる。院内には今までのスタッフの代わりに、新しい看護婦、2人の男性職員。行きつけのバーには、新しい給仕。そして患者に、カミンスキーと名乗るロシア系ヒゲ男や、クーパーと名乗る米国人が診察室を訪ねてくる。そして夜には「アレックス」が院内に現れる。マリックは急いで彼を用意しておいた部屋に匿う。
院内の話を盗み聞きしたマリックは、アレックスは東西両側から脱出しようとするドイツの原子科学者ヴォゲル博士だと知る。
ある日、先日診察室にやって来たクーパーが、マリックに会いに来た。米国特別情報局でハワード大佐の上司だという彼は、病院で匿っているアレックスの顔写真を撮って来るよう、マリックに頼む。マリックは考えた末、東西どちらの立場でもないハワードやヴォゲル博士に同感し、入院患者の顔写真をアレックスだと偽って提出する。
これらマリックの行動は、全て東側にも漏れていた。カミンスキーは、診察室を盗聴してある旨を電話を鳴らして証明して見せ、自分にも例の写真を見せるよう要求する。
翌朝、病院からスパイが完全にいなくなる。アレックスがヴォゲル博士ではない事を、写真を見て確信したクーパーらが、病院からスパイを引き上げたのだ。
以下、結末ばれ。
アレックスは、マリックから写真工作の話を聞いて激怒する。アレックスは、ヴォゲル博士ではなかった。格安で核爆弾を製造する方法を発明してしまった博士の逃避を援助するために、彼を装ってスパイの気を引いていた囮だったのだ。計画を台無しにした事が分かったマリックは、尻を拭う覚悟を決める。
そして、何とかハワード大佐を見つけ出すも、彼は毒を盛られて死ぬ間際だった。マリックは大佐に代わって計画を実行すべく、ヴォゲル博士の居る列車に乗り込む。待ち合わせの個室に入ると、そこへ博士もやって来た。博士は自分の発明に関わる責任から、自殺を思う苦悩をマリックに話す。
もちろん、カミンスキーとクーパーも後を追って、列車に乗車している。マリックは外の様子を見に、個室を留守にする。部屋に戻ると、居るはずの博士の姿はなく、列車の窓が開いていた。
病院に戻って来たマリックは、口がきけるようになった患者ルシーを証人に、事件の成り行きを警察に話そうと決める。途端、診察室に電話の音が大きく鳴り響くのだった…