本日はクルーゾの遺作【囚われの女】の紹介です。
みなさん、こんにちは。
クルーゾ三昧も終盤にさしかかりました。
私は彼のサスペンスが大好きなのですが、本作は今まで何気に避けてきた作品…
今回、思い切って鑑賞しました。
クルーゾがこんな作品作るとはね、ビックリです。
ものすごく、変な作品です。
タイトルからも臭う(匂う)かと思いますが、作品のテーマ色は「服従」なので、ご注意を。
作品情報
『囚われの女』 原題 « La Prisonnière » 監督脚本 アンリ-ジョルジュ・クルーゾ 出演 エリザベス・ウィナー ベルナール・フレッソン ローラン・テルジェフ 公開年 1968年 上映時間 106分 ジャンル ドラマ
あらすじ
ジョゼの夫ジベールはモダンアートの芸術家で、画商スタンのギャラリー展示会の準備をしている。ジョゼは展示会場へ夫の作品を観に行った時、スタンと知り合う。ある晩、ジョゼはスタンの家に行く。彼の撮る前衛的な写真やオブジェを目にし動揺するも、モデルの撮影の現場に立ち会わせてもらう。徐々にジョゼとスタンとの密会が増え、ジベールが疑いはじめる。ついにジョゼとスタンは二人で旅行に行くが、翌朝スタンはジョゼをホテルに置き去りにする。ジョゼとジベールの夫婦関係も破綻に傾き、ジベールはスタンを殺そうとする。矢先、ジョゼが交通事故に会う。
感想
クルーゾの遺作。何を血迷ったか、今までの作風とは全く異なり、性癖感を強く漂わせる作品。ヌーヴェルヴァーグのはしりみたく、前衛色が目立ちます。と言っても、モダンアートをちょっと馬鹿にしてる風もあります。
画面の作りはとても美しく、色彩のバランスだけでなく、万華鏡のような視覚的効果を多用するなど、こだわりが感じられます。美しいカットにこだわるクルーゾですね。
登場人物は3人だけ。
まずは、若き画商スタン。『服従は甘美な自己放棄』とか言って、モデル女性を従わせ、エロチックな写真をとるのが趣味。
2人目は、そんな薄暗いスタンに惹かれていく女性、ジョゼ。SMを理解できない彼女が、スタンによって徐々にその味に反応していく、というのが話の筋。
そして3人目は、ジョゼの旦那ジベール。ノーマルな感性でモダンアートをやっている芸術家。最後まで妻ジョゼに振り回される。クルーゾがどこか馬鹿にしている登場人物、な感じ。
映画の冒頭からして強烈です。裸のリカちゃん人形みたいなゴム人形を、スタンの細長い指がいじくる場面で始まります。別に人形に変なことしてるわけじゃないのに、ゴムの質感が合間って、ねっとり生々しさが漂います。
ジョゼ役を演じたエリザベス・ウィナーが後年のインタビュー*で、スタンはクルーゾ自身だったと語っていますが、まあそうでなきゃ、こんな傾向の作品は作れないだろうなとは思うところです。
画面描写はそう露骨でないのに、会話やカメラの対象物からは、歪んだ自尊心と共にあるコンプレックスを随所に漂わせます。この、画面で暗に語るパワーは、クルーゾの持つすばらしい一面だと思います。
個人的にそそられないテーマの上、何が言いたいのか分からない作品だったので (私の勉強不足か…) 星3/5ほどしか付けられないですが、視覚効果を狙った映像美や、展示会の場面でピエール・リシャールやミシェル・ピコリなどの大物カメオ出演など、気の利いたスパイスで楽しませてもらった作品です。
俳優陣は、スタン役のテルジェフが、役柄のせいか観ていて少し違和感あったけど、ジョゼ役のウィナーやジベール役のフレッソンは、自然体のなかなか素敵な演技を披露していました。
そうそう、「ええ〜っそんな!」となるクルーゾの定番、ラストで一発も健在でした。ジベールかわいそう…
*DVD-Clouzot-L’essentiel 12films