仏映画【仁義】あらすじ感想/メルヴィルの男の美学

ドロン、モンタン、ブールヴィル。

男たちの運命の巡り会いを描くメルヴィルの『仁義』フィルムノワール。

140分と長い作品。派手さは全くありません。男同士の心情が静かに描かれています。

ヒゲのドロン、アルコール依存症役のモンタン、マジメな警部役のブールヴィルは必見です。

《仁義》

原題 « Le cercle rouge »

監督 ジャン-ピエール・メルヴィル
出演     アラン・ドロン 
     ジャン-マリア・ヴォロンテ
     イヴ・モンタン 
     アンドレ・ブールヴィル 

公開年  1970年
上映時間 140分
ジャンル 犯罪・スリラー
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あらすじ

マルセイユ。

コレィ(ドロン)が5年の刑期を終え出所する前日。看守長がコレィに宝石強盗の話をもちかける。しかしコレィは断る。出所後、彼は昔の貸しがあるリコの元へ行き、渡し渋るリコから大金を奪い、車でパリへ向かう。

道中のレストランで休憩をとっている間、警部マテイ(ブールヴィル)の護送から逃げてきたヴォジェル(ヴォロンテ)が、コレィの車のトランクの中に隠れる。コレィは誰かがトランクにいると知っていながらも、検問を抜けて車を走らせる。

コレィは人気のない所で車を停め、トランクの中に隠れてるヴォジェルを外に呼び出し面識をとる。コレィは再度トランクにヴォジェルを隠し、パリに向けて車を走らす。

 

途中、追って来たリコの手下に襲われ金を取り上げられる。トランクに隠れていたヴォジェルの機転で、コレィは場の危機は逃れるが、リコから奪った大金を血で汚して台無しにしてしまう。

その後2人は、元警官で名射撃手のジャンセン(モンタン)と共に宝石店での強盗をやることにする。

マテイ警部は脱走したヴォジェルを捕らえるため、ヴォジェルの知り合いでクラブ経営者サンティを使って策をめぐらす。と同時に宝石強盗犯たちに罠をしかけてゆくこととなる。

感想

男しか出てこない作品。コレィ・ヴォジェル・ジャンセンの間にある、悪事を一緒に働く者同士に必要な、確固たる信用感と、そこからくる絆を描いてます。友情って感じではありません。コレィとヴォジェルなんて出会って間もないですし。

お互いが「何か心の底で通じ合ったモノ」を直感的に感じとる「その瞬間」を絶妙に描写しています。

コレィが荒野の真ん中に車を停めて、トランクに身を潜めるヴォジェルを呼び出し、2人で初めて言葉を交わす場面もそう。「何か通じ合ったモノ」が2人の間で次第に確立していく様子が、映画を通してずっと感じられます。

言葉でお互い「信用してるぜ」みたいなことは言いません。でもガッシリ信用し合っているということがヒシヒシと伝わってき、これが男のメンタル美学かと感じさせられます。

唯一ジャンセンが、コレィに遠回しに感謝を述べる場面があります。元敏腕射撃警官でアルコール依存症のジャンセンが、「盗んだ宝石の分け前はいらない」とコレィに言う場面です。

強盗の仕事をコレィが依頼してくれたおかげで、アルコール依存症から立ち直れたから。彼の射撃の腕のおかげで強盗が成功したのに、その分け前いらないとは。自分に対する「自信」を取り戻せたことは「宝石」よりも高価なんです。クサイけどなかなか良いクダリです。

 

全体的にセリフはそれほど練られてないのですが、そのぶん、空気の描写はピカイチです。場の雰囲気だけでなく、人の心内までも無言で描きだします。

静けさをとても上手く操った作品です。宝石強盗の場面なんて20分ちかくずっと無言ですが、観てる方は手に汗をにぎりながら画面に釘付けです。

バックミュージックは必要な時に、必要最低限の音量で流れます。ジャズ旋律自体もバスを主線とするシンプルなもので洒落てます。

カメラの動きもとても丁寧。ガサツな動きを感じることはありません。いつも「動」の中に「静」を感じる作品です。

俳優陣も味あるキャラがたくさん。

ドロンはいつものように言葉少なく、もしくは無言で演技。なにカッコつけてんの?っていうくらい動作もノロい。それでカリスマ性ある存在感を十分ぶっ放せているのだから流石です。

お酒依存症役のイヴ・モンタンは、とても魅力ある演技をしています。納戸から爬虫類が出て来る幻覚を見てベッドから飛び起きる時なんて、酒ビン部屋に住んでる汚ったない呑んだくれオヤジ。それが強盗計画のランデブーに向かった時の彼のカッコ良さったら。その後はやること成すことダンディです。この作品における目立ち度は、ドロンといい勝負、もしくは上だと思います。

この2人に比べて少しパンチに欠けていたのが、ヴォジェル役ヴォロンテ。彼も静かなキャラを演じるのですが、ドロンとモンタンにちょっと食われてしまっていた感があります。芯の強い存在感は持っている人だったので、これはキャラ設定の問題だと思います。残念。

そして忘れてはならないのが、マテイ警部役のヴールヴィル。この役に彼を持って来るのは、本来のブールヴィル使用法の逆の使い方。喜劇俳優である彼が超マジメなキャラを演じるからです。マジメ役も悪くはないんですけど、やっぱり面白いブールヴィルの方が、彼には似合っていると思いました。

もう一人、登場人物でサンティというクラブ経営者が出てきます。彼はマテイ警部(ブールヴィル)の情報屋になるのを拒みます。するとサンティの息子は、学校でクスリを売っているとして逮捕されてしまいます。この逮捕騒動は警部のでっちあげだったのですが、サンティの息子は実は本当に学校でクスリを売っていて、マティ警部にしたら棚ぼたな出来事でした。こうしてサンティは自分のおバカ息子を救うために、マテイの情報屋になることを余儀なくされます。地味だけど大きな存在の人物です。

タイトルについて

原題は «  Le cercle rouge »「赤い輪」です。作品冒頭に、ブッダが赤いチョークで輪を描いてこう言った『人はそれと知らずに必ず巡り会う。たとえ互いの身に何が起こり、どのような道をたどろうとも、必ず赤い輪の中で結ばれ出会う』》というのが紹介されます。

これがこの映画のテーマ。コレィ・ヴォジェル・ジャンセン・マテイ警部の運命の関係を示唆しています。ドロンがビリヤード場でスティックの先に赤いチョークで輪を描くシーンにも、赤い輪は強調されています。原題の「赤い輪」は運命の巡り会い、「仁義」とはまったく意味の違う視点です。

” Çakyamuni le Solitaire, dit Siderta Gautama le Sage, dit le Bouddha, se saisit d’un morceau de craie rouge, traça un cercle et dit : ” Quand des hommes, même s’ils l’ignorent, doivent se retrouver un jour, tout peut arriver à chacun d’entre eux et ils peuvent suivre des chemins divergents, au jour dit, inéluctablement, ils seront réunis dans le cercle rouge (Rama Krishna)”.

おまけ

監督メルヴィルって、なかなか難しい人だったようですね。オレ様で一匹オオカミな面が強かったみたいです。特にこの映画の撮影では、チームは皆かなり疲れていたとか。楽屋に独り篭りきってチームにセッティングを丸投げ、自分は準備が整ってから出て来る。ドロンは « 彼があの楽屋から出てきたら僕も出て行くよ » とちょっとイラっとしつつも面白げに言っていたそうです。

ヴォジェル役のジアン-マリア・ヴォロンテなんか、メルヴィルが大っ嫌いでした。怒って何日間か撮影現場に出て来なかったのです。ヴォジェル役に代役がいたのはそのためです。

そしてブールヴィルの演じたマティ警部。最初はリノ・ヴォンチュラに話がいったのですが、彼はメルヴィルにウンザリしていたので出演を断ったため、ブールヴィル採用になりました。後にメルヴィルはブールヴィルについて、『彼は私が想像もしていなかった、そしてヴォンチュラではもたらしてくれてなかっただろう人間性を、自分にもたらしてくれた。』と言っています。

本来コミック役のブールヴィルがマジメな役を演じる。影があって、家では彼の帰りを待っててくれるネコを愛す警部役。大成功でした。彼はこの撮影期間中にガンの告知を受けています。仕事関係者には徹底的に病気のことを隠し、そんな中で彼はこの仕事をやりきります。撮影終了して数ヶ月後、53歳で亡くなります。

【参考・参照】Le cercle rouge -L’Express