仏映画【悪魔のような女 (1955)】クルーゾのサスペンス・スリラー

殺してプールに沈めたはずの遺体がないっ!

爆発物を運ぶトラックチェイスの映画『恐怖の報酬』など、サスペンス製作で有名な監督アンリ=ジョルジュ・クルーゾ。

今回は、彼の作品【悪魔のような女】のレビューです。

 

みなさん、こんにちは。

いい具合に心臓バクバクを体験できる、期待以上に面白かった映画【悪魔のような女】。

この映画はリメイク版も存在しますが、ここは原版1955年クルーゾ作の紹介です。

映画の最後で『これから観る人の為に話をばらさないでください。』と流れる作品ですが、私の紹介では結末バレしますので、ご注意ください。

そういや後に、ヒッチコックが映画『サイコ』で同じ「バラさないでね」手法を起用していますが、クルーゾのアイデアだったと言えそうですね。

それではどうぞ、ごらんください♪

作品情報

【悪魔のような女 】

原題 « Les Diaboliques »
監督脚本 アンリ・ジョルジュ・クルーゾ
出演 シモーヌ・シニョレ
   ヴェラ・クルーゾ
   ポール・ムリッス
公開年  1955年
上映時間 114分
ジャンル 犯罪・サスペンス・スリラー

感想

サスペンス性だけでなく、緊迫するスリル感や、適度なホラー要素を含んだ作品。

言うまでもありませんが、白黒映画の陰影が表現する「恐怖感」は、この作品においても最高の魅力。オープニングに流れる音楽も、ストーリーの雲行きの怪しさに拍車をかけます。

65年も昔の作品ですが、古臭さは感じません。前半、少し間延びするのが鼻につきますが、それも後半で、あっと言う間にスリル渦に巻き込まれてしまいます。

見ているだけでムカつく、暴君男ミシェル。信心深く、か弱いクリスティーナ。神経の図太い感じ満載の、愛人ニコル。刑事コロンボみたいな粘着性をもった、刑事フィシェ。

安定した俳優陣による、個性豊かなキャラたちによって、グイグイと映画の中に引き込まれて行きます。

 

(以下、ネタバレ)

ただひとつ、ストーリーが「疑惑」を抱かせて終わるタイプの作品なため、自己解決が下手な私には、観賞後に消化不良感が残りました。もちろん、それも「余韻」を楽しむ要素なんでしょうね。

ちなみに、本作品の邦題名では、悪魔的なのが「ひとりの女」ととれますが、原題の仏語では「男女」は判断できない上、「複数人」の意味となっています。

あらすじと結末

ミシェルは、資産家の妻クリスティーナが所有する、少年寄宿学校の校長をしている。彼は虚弱な妻や、施設の教師で愛人でもあるニコルに、いつも暴言暴力をふるっていた。そんなミシェルに疲れた女ふたりは、彼を殺す計画を立てる。

クリスティーナは、夫ミシェルをニコルの家に呼び出し、睡眠薬入りの酒を飲ませる。そして眠り込んだ彼を、ニコルが浴槽で溺死させる。二人はミシェルの遺体を、車で夜の寄宿学校まで運び、校庭の水の汚いプールに沈めた。

後日プールの水を抜くと、そこに沈めたはずの遺体は無くなっていた。

この時から、校内では、ミシェルがまだ生きているかの様な出来事が頻発する。彼のスーツがクリーニングから戻ってきたり、学校の集合写真に彼が映り込んだり、寄宿生モワネが彼を見たと言ったり。クリスティーナは徐々に精神的に参ってくる。

ある日、クリスティーナは、身元不明の遺体の確認のため、警察署を訪れる。遺体は別人であったが、そこに偶然居合わせた引退刑事フィシェが、彼女の事件に興味を持ち、捜査を開始する。

夜、クリスティーナは目を覚ます。ミシェルの書斎室に人気を感じ、恐る恐る長い廊下を進む。部屋を覗くと、机上のタイプライターには、ミシェルの名前が打ち出されており、彼自身の手袋も置いてある。恐怖におののいたクリスティーナは、走って寝室へ戻り、洗面室に転がり込む。そして、ふと顔を上げると…

(以下、結末バレ)

水の張った浴槽に、白目をむいたミシェルの遺体が沈んでいる!その遺体が徐々に立ち上がって… クリスティーナは恐怖で心臓発作を起こす。

やおら義眼を外して、彼女の絶命を確認するミシェル。そこへニコルが走り寄り、ふたりは抱きしめ合う。とその時、彼らの会話を全て聞いていた、刑事フィシェが姿を現す。

事件が解決し、寄宿学校が閉鎖される最後の日。校庭には「クリスティーナ先生から返してもらったんだ」と言ってパチンコで遊ぶ、少年モワネの姿があった。

おまけ

この映画は、作家ボワロー/ナルスジャックの小説を元にしており、当時ヒッチコックもこの小説の使用権をねらっていました。しかし著者らは、ヒッチコックには別の作品を書き上げ、それが後に映画『めまい』となります。

湯船で溺死する、ミシェル役のポール・ムリッス。この短いシーンの撮影は、彼にとって、一日中水風呂に浸かりっぱなしの、体力を消耗する大変な撮影となりました。耳には耳栓、口には蒸気を吹かないための氷、足首にはクルーゾとのやりとりの紐。そして、水風呂から上がる度に、スタッフから温かいウイスキーグロッグをもらっていたそうです。

監督の妻で、心臓の弱いクリスティーナを演じたヴェラ・クルーゾ。彼女は本作品の5年後46歳の時、まさに彼女が演じたように心臓発作でこの世を去ります。ちょうど映画『真実』の撮影で、監督(夫)アンリ=ジョルジュと主演ブリジット・バルドーの2人の噂が流れていた時期でした。ヴェラはかなり心傷していたと言われています。

参考参照 : Anecdots du film Les Diaboliques / L’OBS«Les Diaboliques»,histoire d’un tournage électrique.

            

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