「初めてには願い事を…」

とある夏の始め、雹が降った。
いきなり空が真っ黒になったとたん、バコバコという激しい音が家中に響き渡った。
何事かと窓の外を見ると、庭の芝生がものすごい速さで、氷で埋もれていくではないか。
初めての経験に呆然と外を眺めていると、ご近所さんが慌てて出てきて、高級車のフロントガラスに毛布をかけるのが見える。
その光景にハッと我に帰り、私も慌てて犬を家の中に入れ、雨戸を閉めた。
ここパリでは、霰が降るのは珍しくないが、雹は珍しい。
私の人生においても、初めての雹である。
これも気候変動による地球温暖化のせいか…としばらく真顔で耽っていると、やっぱり聞かれた。
「で、願い事した?」
フランス人は初めての事に出会うと、ひとつ願い事をするのが好きである。
それも上手いことして、何でも「初めて」に持っていく。
「今年初めての〇〇」とか言って。
何かしら託けてフェットをするのが好きな人たちなので、大きな被害もなく済んだ「雹」に願い事をするのも、まあ不思議ではない。
昔は、彼らのこの短絡的にも思えるノリに戸惑ったものだが、いつの間にか、小さな事にも前向きになれるこの陽気さが、幸せへの近道だと思うようになった。
今では私も、すぐに願い事をしている。